diary

バロック詩の情報。

フィリップ・デポルト

(拙訳)

征服

その両眼、純情を業火で焦がし、
その波打つ髪、心臓を鎖で絞め、
その優美な指先、願望を仕留め、
その才気、思索を戯れ言にし:

その澄んだ眼差、星屑の燃焼より熱く、
その髪の光沢、陽光を暗転くらいに矮小し、
その細い手、あらゆる象牙より純白、
その才気に比するなら、蒼穹の高みなど笑止。

噫、瞳が余の心をあどけなく殺す !
咽、指がカエサルの精鋭より巧妙に襲う !
懊、才気が太平王国を滅ぼす !

愛の神、判ぜよ、どんな狼狽せぬ心なら、
この瞳と髪と、才気と指に
蝋の蕩けずにおれるだろ ?

 

(via https://mypoeticside.com/poets/philippe-desportes-poems )


この三日というもの、どれ程の思いに悩まされたことか。
三日などではない、三千年だった。


(濱田明 訳)


【蛇足】最初の詩は典型的なブラゾンだ。

アンドレア・ペルッチ

(拙訳)

「アニャーノの水没」より

ユピテルはある乞食の姿を模倣した :
頭髪は抜け落ち、酔いどれで、
眼はかすみ歯は1 本もなく、
首はねじれ背中に大きな瘤、
虱のいいエサ、鼻突くクサさ、
帽子はぼろぼろ、穴だらけ、
靴下は漁師の網状態 :
服はつぎはぎボロ雑巾。
腰からぶら下げた木製のスープ皿、
背負ったナップサックは擦り切れ革。
木っ端より脆い杖に何とかもたれかかり、
みんながけなす編み靴の
紐と糸とを結んでばかり。
その代わりバッカスは、自慢の
巨躯を活かし、模倣した
姿はまったく対称的だった。
かの布袋腹で、挙げてゆくと
どん腹乞食、背中に羽織った
シャツは泥だらけ、頭を包む汚い布、
ゆがんだ腕を曲げれば
その顔は、サフランより黄ばんだ埃まみれ、
軸の折れた杖をひきずり
い草で刺繍した靴をはき :
その格好で、町へ出た。

【蛇足】長い詩なので、②に続きます。

thry.hatenablog.com

ジャン・ド・スポンド③地球を動かす最良の支点

(従業員 2 名による訳)

愛の十四行詩集より

「われに支点を与えよ、そうすれば
地球を動かしてみせよう」とアルキメデスは言った。
初めて梃子の原理を解明した、賢者の
パラドックスは机上の諧謔に終わった。だが

もしこの死せる哲人がよみがえるならば
その発想を明白に実証し、もはや
空理空論ではなくなる。この理論上の支点は、
あなたを想う私の愛情の中にある、愛する人よ。

愛ほど揺るぎなく、強いものがあろうか?
愛ほど、絶え間ないストレスに、曝される人生が長引くほどに
ますます堅固な安らぎを増す物があるだろうか?

これこそが最良の支点である、乱れた世界すら
動かす支点。アルキメデスは
やりおおせた、この愛の本質を知っていたならば。


【蛇足】スポンドは人間が狼になった存在はありえるか、という論考で、ハーブを使って心をコントロールできるなら、体もコントロールして物理的に変えられるだろう、と日和った。ここからジル・ガルニエは単に幻覚剤を投与されていた…という抜け穴を作ることもできる。

ジャン=バティスト・シャシニェ⑦死すべき者よ、考えよ

(English Translation)

Mortal, think: what’s under a charnel’s lid:
a worm-bitten corpse, bare of nerve and
bare of flesh, whose naked bones, undone
and stripped of pulp, their swivels quit:
here, out of putrefaction, falls a hand,
and there, turning inside out, the eyes
distill into phlegm, and varied muscles,
for gluttonous worms, become some grassy land:
the torn-up belly blaring with stink
infects the nearby air with a foul stench,
and the half-gnawed nose deforms the face;

(via https://aditimachado.com/tag/farid-tali/ )

(拙訳)

死すべき者よ、考えよ: 遺体安置所の蓋の中身を:
蛆に喰われた神経も肉もない死骸、 その
むき出しの骨は骨髄がほどけて剥ぎ取られ、
回転をやめてしまった:
こちらでは腐敗から手が落ち、
あちらでは内から外へ、両眼が粘液化し、
あちこちの筋肉が、食いしん坊の蟲たちの
お陰で、 一握りの草土になる:
腹は裂け、大きな音とガスで
周りの空気を不潔な臭いに染め
半分腐った鼻で顔は奇形化する;
死すべきものよ、己の脆さを弁え
「神」だけに頼れ、虚しいものと見做すのだ
お前に知恵を与えぬもの全てを。

ジャンバッティスタ・マリーノ⑪バラ讃歌

「アドニス」より薔薇讃歌

バラの花は愛の微笑(ほほえみ)、まこと天のなせる麗質
わが血でできたバラは、真紅に香り
世の賞讃の的、自然界の飾り
大地と日輪との、清ら乙女
ニンフにとっても、牧者にとっても、こよなき歓び
香りかぐわしい家の誉れ
うるわしの花々の上に
女王様にふさわしい態度で、君臨しているのです

美しい玉座の上に、つんとすました皇后様のように
自然の縁に腰をかけている
快い微風(そよかぜ)が、まるでお前にへつらうように
お前のまわりにただよい、お前の意のままになっている
そして鋭い刺の護衛兵がずらりと並んで
ひたすらお前の安泰を計っている
ほんとに王家で人となった者にふさわしく
黄金の冠を頂き、真紅のマントを羽織っている

庭にとっては晴着、野にとってはこよなきおごり
春にとっては宝玉、四月にとっては瞳
美の三神とキューピッドの弟たちにとっては
頭を飾る花冠、胸をいろどる頸飾り
おおバラよ、愛らしい蜂や、やさしい微風(そよかぜ)にのこった滋養分を与えてやっておくれではないか
ルビーでできた盃で
露玉の美酒(うまざけ)を飲ませてやっておくれではないか

いかに小さな星に囲まれているからといって
太陽なんぞには、大きな顔をさせないほうがいいというもの

(中略)

お前は地上における太陽で、あれは天におけるバラとでもいったらいいであろう

しょせん太陽とバラの間には
お互いに愛しあうという望みが、あるというもの
太陽はお前の旗と葉をもって
その暁の姿を装うことであろう
お前は花と葉の中で
燃えるような太陽のお仕着せを、拡げることであろう
そして太陽をひきつけ、充分に太陽の真似をするために
お前はいつも小さな太陽を、胸に抱きしめていることであろう


(五十嵐仁訳)


(English translation)

The beautiful goddess, who bloodied the rose
though her bosom wounded by sour blow,
against her son did not appear scornful
in order not to make him harsher and prouder;
but pressing the hidden wound to her heart,
she bit her finger and said: “I will keep it for you.
At this time I do not want to trouble
my joy so much with another’s grief.”

Then, her lights turning to the nearby hill,
where was the brake that the beautiful foot pricked,
she lingered a little to stare at it, and she wished
to greet her flower before she departed;
and seeing it still dripping and soft
there wearing purple, so she said to it:
“May heaven save thee from all outrage and harms,
fatal cause of my happy apprehensions.

*1Rose, splendor of love, work of heaven,
rose by my blood made vermilion,
excellence of the world and ornament of nature
of the earth and of the sun virgin daughter,
of every nymph and shepherd delight and care,
honor of the fragrant family,
winnest thou of every beauty the first palms,
above the commons of the flowers Lady sublime.

Almost on fine throne proud empress
sittest thou there on the native bank.
A throng of lovely and flattering breaths
courts thee around and favors thee
and of prickly guards an armed cohort
defends thee from everything and surrounds thee.
And thou splendid in thy regal pride
bearest the crown of time and of purple the mantle.

Purple of the garden, pageant of the meadows,
bud of spring, eye of April,
of thee the Graces and the winged Amoretti
make garland to the locks, to the bosom a necklace.
Thou, when the fairy bee returns
to her accustomed foods or the gentle zephyr,
givest them to drink dewy and crystalline
liquors from a cup of rubies.

Not haughty, the Sun ambitious


(中略)


thou sun on earth, and he rose in heaven.

And well will be between you compliant desires,
of thee be the sun and thou of the loving sun.
Of those thy emblem, of thy petals
Aurora will dress his Levant.
Thou wilt unfold in thy hair and in thy leaves
her golden and flaming livery;
and to depict it and imitate it to the full
thou wilt always bear a tiny sun in thy bosom.*2

And because to me for this favor yet
some pleasant grace to render is expected,
thou wilt be alone among so many flowers as has Flora
my favorite, my delight.
And which woman more lovely the world reveres
I wish that, as much as she be called lovely,
just so much will she adorn thy lively hue
and cheeks and lips.” And she here is silent.

(Via https://marvellscholar.wordpress.com/2014/08/24/the-praise-of-the-rose-from-marinos-ladone )


www.youtube.

*1:邦訳はここから

*2:邦訳はここまで

ジャン・ド・ラセペド⑤叡知的球体の幾何学

(拙訳)

「定理」より

叡知的球体よ、疑いようもなく
貴方の中心は至る所にあり、万物へとつながる
天界と地上、そして恐ろしい地獄、
貴方の辺縁は墓所へと落ちてゆく。

私の魂は傷つき 迷子になってしまった
球体に近づこうとするが、すべての歓楽にある
むかむかする魅力は害をなし
そして千のつまらぬ偽物で魂を追い返した

どうかもう、こんな目にあわせないでもらいたい
あなたの中心で魂を終わらせたい
突如生気を戻されたい:

あなたの御力で、溢れる愛を魂にお与えください
恋は万人の打算をしのぐのだから
あなたの円周を、誰も計算できないのと同じく。

(Via https://arbrealettres.wordpress.com/2017/01/30/intelligible-sphere-jean-de-la-ceppede/ )


【蛇足】J.キャンベルによると「叡知的球体」という比喩のココロは「どこにいても、他ならぬあなたが神の真ん中にいる」と解釈できるとのこと。

ジャンバッティスタ・マリーノ⑨蒼白な女性を愛でる

「竪琴」より

蒼白きわが太陽よ、
おまえの愛くるしい蒼白さに
鮮紅の暁はその色を失う。
蒼白きわが死よ、
愛くるしく蒼白き菫のようなおまえには
愛をたたえた緋色の
薔薇もひれ伏すのだ。
おお、わが運命の意に添いたまえよ。
愛らしいおまえとともにわれもまた蒼白とならんことを。
愛しい蒼白のきみよ !


【蛇足】マリーノは現代も国際会議のテーマになっている。☆リンク☆
大地の落ち葉の数だけ、私の悲しみがある

【蛇足2】イタリアのバッチ(Baci)・チョコは1つ1つに「cartiglio カルティッリオ」という愛にまつわる格言や諺の書かれたミニ虎の巻が入っておりマリーノの詩も採用された。

愛が太陽を動かし、星々は愛で燃える

ジャン・ド・ラセペド④緑木と乾木

(拙訳)

「定理」より

緑木をしてサタンは我らが最初の母を誘拐せしめた:
乾木をしてイエスはサタンのかどわかしに抗った。
緑木は我らが母を地獄に隷属せしめた。
乾木は、母のすべての子らを地獄の炎から救った。 

緑木のサタンはその憤怒が満たされたのを知った:
乾木のイエスは愛が完成したのを知った:
緑木は、すべての生ける魂に死をもたらした:
乾木は(何という驚き !) 死者を蘇らせた。

その日、乾木は緑木に勝利した:
緑木は天界を締め出され、乾木は私たちを
栄光への 開かれた小道へと誘ってくれた。

彼こそはすべてに償われ、すべてに値する者:
このよろこびの乾木こそ、 すべての真実のありか
そして義と安らぎがくちづけを交わすところ。

【蛇足】なぜ緑木より乾木がよいかというと、炎=神とつながるのに、水分=罪はない方がよいから。

ジャンバッティスタ・マリーノ⑦クリストフォロ・コロンボ

(拙訳)

クリストフォロ・コロンボ

私こそがコロンボだ。
他のすべての創作者が驚嘆する、
空飛ぶ機械を造った、
リネンの翅と木の脚で動く;
精霊とともに空を飛び、
誰も降り立ったことのない場所へ
鳩 (コロンバ) を導いた。
 

オノラ・ド・ポルシェール・ロジエ

(拙訳)

マルキウス・ド・モンソーの瞳

これが瞳だろうか、いや神々だ。
王権にも、絶大なる力を誇るだろう:
神? いや、並んだ天国と天国だ。空色の。
その動きは、天国の軌跡。
天国? いや、まばゆく輝く太陽だ。
その光線はわれらの眼を灼く。
太陽? いや、未知なる力の明滅だ、
愛の稲妻が予兆を告げる。
しかし神が、これ程苦しめるだろうか?
もし天国ならば、2 つは等しく動くだろう。
2 つの太陽は、同時に存在し得ない。太陽は1 つしか無いものだから。
稲妻にしては、長すぎるし、明瞭すぎる。
だが私は、それ自身を説明する為に敢えて名付けよう、
瞳、神々、天国、太陽、稲妻と。

 

(Via https://fr.m.wikipedia.org/wiki/Honorat_de_Porchères_Laugier ) 

サン=タマン④チーズふたたび

(知人による翻訳)

ブリ*1だけが、その賛美を金文字で綴るのに相応しい。
そう、金だ。私がオマージュを奉げるフロマージュは
ぜひとも金でたとえなければならないのだ。

人が崇拝してやまない金と同じ黄金色。だが、案じることはない。
割るには指で押すだけでいい、笑いながら裂けば、脂肪が溢れ出る。

その形は丸く無限の円を描いているというのに、
何故、食べるには限りがあるのか ?

その満月は永遠 (とこしえ) の魅力を放っているというのに、
何故、三日月へと欠けていってしまうのか ?


(via https://cheesemaking.com/blogs/fun-along-the-whey/cheesy-humor )

*1:ブリーチーズ

ドン・サンプリシァン・ゴディ

私の魂がそのとき弱い牢獄から飛び立ってゆくと、
どのように私は死ぬのだろう。
そしてどのように私の魂は業火のなかへ墜ちてゆくのだろう
それとも天国へ行くのだろうか。

私にはわかるのだ、肉体が凍り、やつれ、鉛色になり、ばらばらになり、
すっかり見わけがつかなくなったのが。
私には人のいうことが聞える、あわれな男よ、もうおしまいだ、
一生を演じ終えたのだ、と。

私はどのように埋葬されるのだろう、どのように聖水をふりかけられるのだろう、
どのように土のなかに運ばれるのだろう、
墓石に閉じこめられ、穴のなかに住むと、
もはや私は誰にも逢うこともないだろう。

このように私は心に描くのだ、
刻々と駆け足でやってくるこの最後の時を、
ああ! どうして私は生きようか?
喪もなく悲哀もないこの死の影のなかで。

泣きなさい、私の眼よ、泣きなさい、
泣かないでという声には耳をかさないで。
歎きのもっとも少ない者、より少なく十字架を背負うものは、
まさしくもっとも病める人である。

(伊東広太訳)


【蛇足】✝️道産子も凍るブリザードギャグ
  • インバイ (Introduction to the Bible)
  • ドロボー (Dozier, Rowe, Bouldin)

ピエール・ド・マルブフ④フィリスvs世界の不思議

(拙訳)

バビロンはその煉瓦の城壁を誇り、
ロードスは誇り高い巨像を轟かせ、
エジプトは天の最上の高みに至った
工房の見事な石塊で。

エフェソ人は神殿と遺跡を愛し、
セミラミスには目を見張る庭園があり、
マウソロス霊廟は偉大なる不思議、
だがオリンピアのユピテル像には及ばない。
古代人は不思議な詩情の中に生きていた
この地球の最初の奇跡たち
しかし、私の主題は 2 番目にある。

おおわがフィリス、そなたの瞳を描けば
七不思議に焦がれる人々へは、お楽しみの最高潮、
このペン先には、天の奇跡が現れよう。


【蛇足】17 世紀のロサリオ聖母礼拝堂@サント・ドミンゴ教会(バロック建築)と20 世紀のバレエ・リュスは「新しい第八の奇跡」と讃えられた。

クロード・オピル⑤キリストの最後

(拙訳)

門から伸びた、天の御手があなたの肉を形造り 
間をおいてそれが、剥がされしも至高の習い。
閃く象牙の光沢を額はもたない、
閉じかかったまなざしには光も栄誉も見えない、
*1憐に値する悪寒すら感じられぬ顔色、
闇の暴力で奪われてからだは砂色、
開いたばら色の口元は息もまぼろ、
問いたい、あんな繊細な手が何処にあろう、
閂と裂け目、生存と行動、
*2塞の確かな絆がわれらを結ぶ。


【蛇足】原詩は頭韻が Le, Se, Mais, Ni, Ni, N'ont, Ni, Ni, Ni, Qui と続く。

*1:びん。うれい。

*2:ろう。りっぱな入り口。