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バロック詩の情報。

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【蛇足】
 詩のブログを読んで、なんの役に立つんですか ?
そんなプラグマティズムを裏で機能させてるのも、超絶主義者(エマソンやソロー、ホイットマン)の詩心なんですよ(うけうり)。

地方の才人

菊池袖子 (伊豆)

夜もすがらつくつらつえはいかばかりしげきなげきの杖にかあるらん


内藤千代子 (鵠沼)

「ハーモニカ」おもしろかった。明治の日常系。


上野成子 (能登)

暗がりのみちゆけばふと酒の香がほのほのごとく頬をおそふも

ジャン・ド・ラセペド⑦イエス・キリストがプルートを殴る

(拙訳)

愛が彼をオリンポスから下らせた:
愛が彼に人の罪を負わせた:
愛が彼に血を流させた:
愛が彼に唾を吐きかけられる苦しみを与えた:
愛が彼の頭にこの棘をつけた:
愛が彼の母に、彼がこの木に吊るされるのを見せた:
愛が彼の手にこの無骨な釘を打ち込んだ:
彼の愛はとても大きく強い。
地獄に襲いかかり、死を打ちのめす、
従順なエウリュディケを冥府の王プルートから奪い返す。
愛する人よ、この英雄があなたを愛して死んだのは誰のためか:
これほど残酷な苦痛がかつてあっただろうか、
これほど完璧な恋人がいただろうか。

( Via https://catholicexchange.com/the-poet-of-the-passion-of-christ/ )

ピエール・ド・マルブフ⑤アイリス(菖蒲、虹彩、虹)

(拙訳)

太陽の光は、雲のうねりの上に降り注ぐ。
反対側の雲は、露の気配で
やがてアイリスの穹窿が見えてくる、
虹彩の輝きが地平を彩る。

ああ、彼女はもうここにいる。
天空を多彩に染め上げ、さまざまな輪を生み出す。
そして太陽にその誕生のエナメルを見せる、
その上に光線を投げかけながら。

彼女は腰の周りに半円を描く
私たちの目から円の半分を盗む、
様々な絵の具の色を混ぜ合わせる、
紺碧、紫、金、彼女は天を飾る。

貞淑な鳩の黄金の首、
太陽に向かって色を変える;
それでもなお、菖蒲の色はもっと美しい。
私たちの目を楽しませる鳩のエナメルよりも。

それゆえ、われわれは身を隠そう。
水の女王が告げに来た
やがて彼女の円弓の水分が
私たちに水を与えに来る。

太陽は裸の空に顔を沈め
この美しい虹の金庫を形作るために、
イエスは太陽、世界は雲、
恩寵は光線、聖母はアイリス。

 

 


【蛇足】仏教にも、言葉遊びはある。

火宅の譬喩では、jñāna (智恵)とyāna (乗り物)が中期インド語ではともにjānaであることを利用した言葉遊びが用いられている。👈「素晴らしい玩具をあげるから出てきなさい。羊の車、鹿の車、牛の車があるよ」*1

*1:古代インドの、テラコッタ製の玩具は洗練されていて、車は可動部品の組合わせで造られ、競走ごっこができた

ジャンバッティスタ・マリーノ⑲奇想詩

(拙訳)

女神の雪像は、
見る者の目には冷たく映る、
だが違った、内に炎を燃やしていた。
氷の井戸の底…

(奇想詩「アフロディテの雪の彫刻」より)


…愚か者、信じやすい人、
盲目的な人間の舌に
この女神は、どれ程甘い事だろう…

(奇想詩「アフロディテの砂糖人形」より)


エスプレッソ (特級の) 蜜蝋が形作る、
見事な造形の顔にキスをした、
私は己自身を誘惑する
もし不運があるとしたら…

(奇想詩「ろう細工の貴婦人」より)


【蛇足】この時代は古代の神々が急速に商品化され、価値観が大きく揺らいだ。すぐ溶けて消えるような素材の彫刻を詩にした理由には、それもある。

ジャン=バティスト・シャシニェ⑫赤ら顔の虫

(拙訳)

己の在り様を見つめよ。
あなたが求めるこの角笛は
青白い墓の下で朽ち果てなければならない、
リンゴの欠片の懲らしめを受けるのだ。
ブーケよ、人間ほど不幸なものはない、
赤ら顔の虫ほど見るのも恐ろしいものはない、
腸から滋養のある肉を貪る、
骨までむさぼり食う。
彼はどれほど愛されてきたことだろう。
友人や隣人から尊敬されてきたことだろう、
このような惨めな男を見つけられなければ
その悪臭を放つ角である
自分自身に恐怖を感じない者はいない。(CCCXIII)

緑の中の良心の虫は、あなたを滅ぼす。
昼も夜もあなたを追う死の一撃、
あなたの素朴な美しさは、あなたを腐らせる。
( Via https://journals.openedition.org/edl/904 )

サン=タマン⑤ミツバチは涙を飲む

(拙訳)

ミツバチは涙を飲むために、愛する巣を離れ
平原に蒔かれた花々の魂を弔う。
蜂はさらに、優しい蝶について語る。
百合の花に代わって
薔薇に口づけをする。


【蛇足】17世紀の枢機卿ジュール・マザランは、宴席で魚のように見える肉、肉のように見える魚、野菜のように見える果物、果物のように見える野菜を供し、ゲスト達を驚かせた。

コーヒーゼリーの下にアイスクリーム、ココナッツキューブの角砂糖、スチームミルク。

クロード・ル・プチ⑤数奇な運命

ル・プチが火刑に処された翌年の1663年、オランダ・ライデンで「美神たちの淫売宿」が出版された。詩人は原稿のコピーを友人の一人、シルデベック男爵に送っていたのだ。男爵が印刷させた本は、国立図書館に1部だけYe 4920という番号で保管されていた。

だがこの蔵書は、19世紀半ばに何者かの手によって姿を消す。 しかし、エドゥワ・トリコテルとアルフレッド・ベジという2人の人物がそれより前に別々に内容を書き写して保管していた。その2人の複製をもとに、1910年「美神たちの淫売宿」はフレデリック・ラシェーヴル社から200部発行された。


【蛇足】ル・プチには「滑稽なウィーン」という詩集もあったらしい。彼は、イエズス会の矯正を拒んで僧侶を刺して海外逃亡しスペイン、イタリア、オーストリア、ボヘミア地域、ドイツ、オランダ、イギリスを旅した。さすがに「北のヴェネツィア」サンクトペテルブルクには行かなかったようだ。

フラミニオ・デ・ビラーグ

(拙訳)

理性もなく、ろくな眼もなく、愛を描く連中。
吹聴者、黒天主、嘲笑者、欺瞞者、気まぐれな魔肖。
残忍で愛から本質を奪ったもの。
香草の夜から、彼らは巧みだった。
ああ、そしてそれが真実なら、この悪ガキ共、
彼はその理由として力と暴力のように私たちを描く。
義に不正義を、正義に侮辱を置き、
幸福と善よりも悪に心を向ける。
愚かな意見よ、空虚な幻想よ、
すべての感覚を奇妙な狂気で混乱させるもの、
誤りの泉よ、我々は大きな間違いをしている、
非人間的な怒りを私たちは偉大な神にし、
間違いにより心に大きな犠牲に強いている、
私たちを嘲笑し、死に導く者のために。


(Via http://perso.numericable.fr/anne.lantenant/poeme_Birague_Sonnet_123.htm )

(よい子は見ちゃダメ) ジャン・ド・ラセペドのパロディ詩

thry.hatenablog.com

☝️この作品のパロディを書いてる方を~…のでー、拙訳


彼はすべてを満足させた: 彼はすべてに値する、

この乾木の上で、歓喜は真実に到達する :
そこには正義と平和が睦み合う。
酔っぱらったグラスの中のサタンは、私たちの魂の歓喜を飲みこんだ。
イエスは魔法でグラスを再び満たした: 地獄の美しいグラスは吐瀉物に変わった: しかしそれはブランデー、地獄の効果だ !

サタンは自らの暴力がアルコールによって満たされると思っていた。しかし、イエスは「友よ、お互いを愛せ」とも言った! 素晴らしいガラスは、命の美しさに値しないが、歓びのおせっくす (何という不思議!) は、すべての人に命をもたらした :

その日、良いおせっくすが、すべての変態性に勝利した。しばしば敬虔なタルチュフ *1 、彼の想像上の神は、非常に隠された方法ですでに己をお見透しだ。

精神は穏やかになった。なぜならば、真実、
この歓びのおせっくすこそ、人の神性のありか

そして、聖体拝領と狂気が口づけをかわすところ。

*1:モリエール劇の登場人物で、聖人君子の仮面を被った偽善者

アブラーム・ド・ヴェルメイユ④キスの和音はルール違反

(拙訳)

愛のキスは、音楽のオクターブだ。
だが1つ手にしたあなたは、2つ目を手に入れようとする。
なぜ、愛で和音を奏でるの ?
それはあなたが言う様に、理論への罪を犯す事。

ムザイン

私の残酷な悲しみに生き埋めにされた、
わが声の墓を延々と引きずる私、
これは、私を圧倒する愛の激しさに応える声だ。
木霊は森の木こりに、そう答える。

しかし、私は己が傷ついた影の様だと思うのか、
全ての場所で私に、痛みという下僕が従うから。
いやいや、主の私がもっとひどい激痛に襲われている。
生ける屍、屍者の生、いや同じ事だ、何も無い
不幸中の大不幸、とはよく言ったもので

【蛇足】ヴェルメイユはビュジェ地方のセルドン(アン県)で生まれた。ムザインという詩の形式(4・5の 9行詩) を発明し、その第一人者である。

イランとフランス、17 世紀概観

17 世紀のイランとフランスは、奇妙にも並列して見える──強力で神聖な君主権が確立され、その統治手段として宗教が形式化された点が(反シーア派、国教化、ナント勅令の取消) 。いずれも反- 神秘主義を伴った。フランスの場合だと 17 世紀末、フランソワ・フェヌロンがボシュエとの論戦に敗れ、精神の遺贈すら可能にした神秘主義に歯止めがかかった。イランの場合は1630年ごろからの20年間に、サファヴィー朝のスーフィズム/メシアニズムに反論するシェイヒュルイスラーム*1 であるアル・クミらのエッセー(西欧未紹介)約20 本が発表され、大宰相を含む聖職者の体制は崩壊した。それ以降法学者・神学者たちは、権力に都合の良い合理主義を促すようになった。
フランスにキリスト教神秘主義的なバロック詩人が現れたのと時を同じくして、イランのタレブ・アモリ (1586~ 1627)は多くの神秘詩を書いた。
(拙訳)

「まるで花嫁たち」の髪型のように、
私の人生という糸は、結び目が連なる
それほど頻繁にこの魂の絆は
ほつれ、その度に結わねばならなかった

(Via https://iranicaonline.org/articles/taleb-amoli )

芝生はミントの春に略奪され
あなたの手の花は角よりも鋭利だ。

【蛇足】ペルセポリス・アパダナの、シャルル・シピエによる復元画。

ピエール・ド・マルブフ (海と愛は分ち合う)

(拙訳)

フィリスへ

海と愛は、その苦さを以て分ち合う
海水は舌を焼き、愛は胸をえぐる
人は海と愛に足を取られ沈む
なぜなら、嵐から解放されることはないから。

海が怖ければ、決して浜辺から出ないように
愛から受ける痛みが怖ければ、
その猛火を拒みなさい
どちらも、苦しみの中で自分を見失う事なく生きられるだろう。


(via https://www.anglaisfacile.com/forum/lire.php?num=3&msg=79398 )


【以下蛇足】
1. アンヌ・ブロシェはアヴィニョン演劇祭でバロック詩を朗読したらしいが、おそらくこの愛らしい詩も演目に入っていた、のではないか。

2. 「グリードフォール」という17 世紀をイメージしたゲームにこのバロック詩が出てくる(実績/トロフィー名「愛と海-LOVE AND THE SEA-」)

3. 2019 年、香港の古楽楽団がこの詩をモチーフに作曲、フランス人による朗詠を交ぜ上演。さすが国際都市(当時)。

フランソワ・メナール

(拙訳)

マニフェスト

小さく上品な、ウサギを連れた*1紳士たちへ、
私の詩が熱病のように
血液と脈拍を変える人々よ、
私はあまりにも虚栄心が強いと知ってください
あなた方に対して何も考える気になれないほど、
あなた方を批判する労力をかける気はありません
読んで、何度も私の韻を読み返してください
そして、あなた方の罪がそこに何も描かれていないことを心配しないでください
確かに、あなた方の精神が病んでいます
あなた方が自分がそのような疑惑に値すると信じ込むならば
私の巧妙な気まぐれが時折悪徳を非難するとしても
それはあなた方についてのことではありません
私の長い不眠の結果生まれる野心的な驚異たちは
宮廷の大物たちにしか興味がありません
彼らのために書くのが私の喜びなのです
なぜなら彼らは私の風刺に
一般的な魅力はないと感じるからです
彼らの優雅な精神は
彼らを非難する時よりも
私が彼らを非難しない時の方が傷つきません
私の優れた精神が熟練して削り、磨いた韻には
何か非常に端正なものがあります
それらはルーヴル宮の会話のすべてであり
女王は私の詩に
彼女の書斎の扉を開けるよう命じます どうか、小さな貴族の方々、
あなた方の弱さに命じてください
それらをもっと重視しないでください
軽蔑は彼らにとって望ましいものです
あなた方のテーブルのために
それらはあまりにも繊細な料理です
あなた方の戦争の功績を話すとき、
私は地球上のすべての人の中で
常に最後になります
それは声高い作業です
一つのドガバンがドアの前で
1ペニーのために2日間歌います
あなた方の名前(私はあなたに宣誓します)
この宣言以外のどこかで
私の詩には決して現れません
蠅に刺されている場合、
あなたの口の冒涜
神を怒らせるだけです
急に戦場に出るところです
ドイツの馬に乗って、
やせて、年老いて、おろそかにされている馬です
あなたの怒りの過度、
どれだけ絞首台があなたに報いるか
王の勅令をあざ笑います
あなたの野蛮な傲慢の暴走から
あなたは山を平らにすると誓います
そして、あなたを四つにして
あなたの腕は地獄とその悪魔と戦うことを脅かします
かつて市民の怒りが
私たちの村を焼き払い
私たちの平野を死体で覆ったように、
あなたの尊大な挑戦
羊や牛に対して
勇気ある努力をするでしょう
フランスの善良な天使が
そのような希望を奪ってくれますように、
あなたの非人間的な勇気から
最後に言わせるように
彼らの帝国の幸福は
あなたの手の中に閉じ込められていないことを
私は毎日考えます
私の平和な思考から、
どれほどうんざりする考えを免れるかを 毎日私は考えます
私が祈らずにいる聖人はありません
私を護ってくれるために
啓蒙主義者の狂信者の怒りから
それらは袋と縄の人々です
私は彼らとはあまりうまくやっていません
そして彼らは私に罠をしかけます
そして、私の平和な気分は
ピストルよりも
フルートの音楽をはるかに好みます

*1:ある種の紳士はおバカの意で「ウサギの騎士」と呼ばれた: むかしむかし、フランスのフィリップ5 世「長躯王」とイングランドのエドワード3 世が争った時のこと。いくさの準備ができた長躯王に、ウサギが王を救出する目的で、急いで伝達に来たと、警告を与えた野営地の兵を王は絶賛し、兵は騎士にするよう求めた。しかし誤報とわかり、彼らは「ウサギの騎士」と名づけられ「紳士がウサギになった」と物笑いの種になったとさ。おしまい。

ジャンバッティスタ・マリーノ⑱愛は鍛冶屋、キスの鍛冶屋

「アドニス」… 主軸はヴィーナスとアドニスの悲恋物語。


(拙訳)
…「お教えください、女神様」 片方が問う「あなたのこれらのキスは心からのものですか、ただの唇からのものですか」相手が応える「私は唇を噛むことで心からのキスをします。愛は鍛冶屋、キスの鍛冶屋。心が蒸留し、唇で叩き出す。魂がもっとも悦び、言葉は少なく。私たちがしているのはキスというより互いの愛を届けあう動きの早い赤褌野郎です。 貪欲な舌が寡黙に語り、その深みは沈黙で感じられます。溜息とキスは私の心のもの、あなたにキスすることはあなたの心を噛むこと。 燃え盛る魂は、互いに抱擁できる唯一の方法で応えあうのです」…

 

…このように黒騎士が話し終えると、白騎士は堂々と応じた。 拙者は正論ではなく、武器で戦い、鉄の舌で貴公に答え申そう、騎士であるからして…


【蛇足】

  • 初版刊行 400 年記念。
  • 「アドニス」、小さな図書館ほどの大きさの、バロック趣味の巨大な記念碑(エリック・バトラー)
  • この詩集のものづくしはブリューゲル(父)とルーべンスのコラボ「視覚の寓意」と並べて評されることがある。