ミゼレーレ

バロック詩の情報。

ジャンバッティスタ・マリーノ⑬ナイチンゲールの美

「アドニス」より

しかしこのうえなくしとやかに歌い優美に羽ばたく
どんな美しく雅な小鳥たちにもまして
森のセイレーンであるナイチンゲールは
そのほっそりとした震える吐息をもらして、
翼をもった群れたちの師匠と見えるように
凝った様式を生み出していく。
自らの歌を千もの様式に変奏し
ひとつの舌(言語)を千もの舌(言語)に変えていく。

 音楽の奇跡を聴くことは、ああなんという驚異であることか、
それはたしかに聴こえるが、かろうじて聴き分けられるのは、
いまは声を打ち切り、いまは再び始め、
いまは止め、いまはよじり、いまは弱め、いまはあふれさせ、
いまはおごそかにささやき、いまは研ぎ澄まし、
いまはいくつもの甘美なもつれをひろびろと連ね、
そしてつねに、まき散らそうが、まとめようが、
同じメロディーでつないではほどく。

 ああなんと愛らしい詩句を、なんと慈愛のこもった詩句を
すこしみだらなこの歌い手は創り口述することか。


(中略)

口のなかとからだのあらゆる内部に
速い車輪か速い旋風をもっているかのようである。
回転し振動するその舌は
練達の残忍な使い手の剣のようである。
落ち着いた音律のなかでその声を
折り曲げ波打たせたり、つるして平衡をとるならば、
さまざまに装飾されたその歌をたくさんの仕方で
ほどく天使と、あなたはこれを呼ぶだろう。

 こんなに小さな生き物がこんなに多くの
力を受け入れられるなどと、
こんなに大きな甘美さを一個の鳴り響く原子が
その血管や骨のなかに隠せるなどとだれが思うことだろう。
あるいはわずかなそよ風でも動かされる
羽の生えた声、飛翔する音以外のなにか別のものだなどと。
羽をまとった生きた息、
歌う翼、翼を持った歌以外の。
(小林実 訳)