diary

バロック詩の情報。

アンドレア・ペルッチ③

まるで17 世紀のナポリの群衆が周りにいるかのようで、私は涙を流しながら観劇していた。(ベネデット・クローチェ、1888年)

羊飼いの歌

「羊飼いの歌」(La cantata dei pastori) は、聖夜のナポリで演じられる音楽劇の中でも、今日では上演が珍しくなった作品で、聖母マリアとヨセフの神秘劇に、コメディア・デラルテのキャラクター、古代の伝説(ベファーナ・クリスマスの魔女) 、福音書の外典をブレンドしている。プロットは、多種多様な悪魔が共謀してイエスの誕生を阻止するため、落とし穴を掘ったりして暗躍し、書記官ラズッロはその真中で翻弄される。マリアとヨセフ、大天使と悪魔、飢えたラズッロは老いた羊飼いのアルメッツィオと狩人の息子のシドニオと幼い息子ベニーノ、漁師のラスチェッロなど、それぞれと関わりあう。タランテッラ、ビラネッラ *1、パストラッレ *2 が奏でられる。 

洞窟の向うにある山の頂上で、羊飼い・アルメンツィオの息子ベニーノは干し草の上で眠り、悲劇で目を覚ます。プレセーペ *3 が消えてしまったのだ。
ベニーノは、罪の山頂から救いのふもとまで下る夢を見ている。ベニーノの羊が7頭 (奇数)なのはバビロンの悪徳を表す。アルメンツィオは12頭の羊 (年の瀬12 月、人生の終わりを表す)。2人は旧年と新年、ベニーノの目覚めは通過儀礼とクリスチャンのクリスマスを象徴する。(プレセーペの数はスモルフィア・ナポレターナ *4 の72「驚き」とも関連)


〽️悪運よ、お前は頑固者だ
わたしに立ちはだかり
そこまで無慈悲なのか、叫ぶしかない
わたしの求めるのは、気分爽快
お前の求めるのは、死屍累々
美しいひとよ、黄金の珠よ
幼い鳩よ、かわいらしい精霊よ
わたしの許を去らないで…

ラズッロのナポリ語の方言は、韻を踏んだ連作文にもなっており、ラズッロが最初に登場した瞬間から、ベニーノが不思議そうに彼に、この世界の住人か否か聞くと、実は彼はかつて「パレポーレ」と呼ばれ、今ではナポリと呼ばれている別の世界から来たのだ、と答える。ナポリ気質は、その豊富な滑稽さを劇にもたらした。

さらにこの劇は、クリスマスの物語がメロドラマに似ていることを指摘する。コメディア・デラルテの主流であるコメディー、一方では宗教ドラマ。悪魔やドラゴン、素朴な庶民の誇張されたおちゃらけぶりが笑いを誘う。ラズッロを見て笑ったあとで、マリアとヨセフの旅に純粋に宗教的な気分を取り戻そうとするのは難しい。 
しかし、ラズッロとキリストの間には、不可思議な、ほとんど神秘的な相似関係がある。キリストの生誕地の舞台上の道化師ラズッロは、人類愛のための愚者としてのキリストのイメージを想起させる。その中での喜劇的統一と豊穣、そして新たな社会秩序を謳歌する場面は、この劇のフィナーレでしか表現できない。

初期のクリスマスのお祝いに、異教のエネルギーが満ちていたことを示唆する。

*1:軽い世俗的なボーカル音楽。最初ナポリに現れ、マドリガルにも影響を与えた

*2:羊飼いの音楽を模した曲

*3:キリスト降誕の場面をミニチュア模型などで再現したもの

*4: https://smonapo.wiki.fc2.com/ に詳しい